徒然日記

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「イミテーション・ゲーム/天才数学者とエニグマの秘密」の感想

ベネディクト・カンバーバッチが主演をされた「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」を拝見したので、その感想を書いていきます。


以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

簡単に説明しますと、この映画は実話を基にしたお話で、舞台は第二次世界大戦下のイギリス。ベネディクト・カンバーバッチ演じる主人公のアランは天才数学者で、彼がドイツ軍が開発した暗号機――エニグマ――の解読を試みるというお話。

 

冒頭は終戦後のイギリス。主人公であるアランという数学教授の家で何やら騒ぎがあったという通報を受け、警察が彼の家を訪ねるシーンから始まります。
明らかに泥棒に侵入されたような室内の様子にも関わらず、アランは何も無かったと警察を追い返します。
そのアランの様子を不審に思った一人の刑事が、アランの素性を詮索し始めます。

 

時は遡り、戦時下のイギリス。上に書いたエニグマという暗号機は、その当時ではとても高性能だったようです。作中では『150×10の18乗』という組み合わせのどれが一つが使われており、なおかつ毎日その組み合わせが更新されるため、今までの情報が全てリセットされるという優れモノ。
イギリス軍は戦争に勝利するために、不可能と思われるこの暗号を解読するためのチームを結成する。
最初、アランは計6人のメンバーの一人に過ぎず、チームリーダーはイギリスで二度、チェスのチャンピオンになったというヒュー(マシュー・グッド)なる人物でした。
しかし、アランはメンバーと一緒に解読には当たらず、いつも独りでエニグマを解読するためのマシン――作中ではクリストファーと呼称――の設計に没頭していました。そんなことだから当然、チームの他のメンバーとは折り合いが悪い。だが、アランはそんなことは一切気にしない。
ちなみにこのエニグマを解読するための機械は「ある単一の動きをするのではなく、柔軟に計算式を変えて暗号解読に臨める機械」という構想で設計されたもので、現在のパーソナルコンピューターの基礎となったものらしいです。

 

ある日、アランは自身の設計したクリストファーの制作に10万ポンドが必要だと自分たちの上司に当たるデニストン中佐(チャールズ・ダンス)に予算を依頼をします。その当時での10万ポンドがどれ程の大金かはわかりませんが、きっと相当なものなのでしょう。アランの訴えは簡単に却下されました。
そこでアランは、デニストン中佐よりもさらに上の立場であり、最高決定権を持つチャーチル首相へ直訴の手紙を出しました。
結果としてアランの訴えは通り、彼がチームの責任者として任命されます。責任者になったアランは真っ先にチームメンバーであった言語学者と暗号学者を役立たずだとクビにしました。

 

減ったメンバーの補充にあたりアランは新聞に自作のクロスワードパズルを掲載し、その問題が10分以内で解けた人物を集めました。そしてそのメンバーに対してより難解な問題を出し、その様子を観察して新規メンバーを選出しようとしました。その時、試験会場に唯一の女性としてジョーン( キーラ・ナイトレイ)が遅れてやってきました。
基本的に遅刻は厳禁であり、さらに当時は女性の能力が軽視されていたこともあって門前払いされそうになったところを、アランの許しを得て試験に参加。
試験内容は天才数学者であるアランでさえ8分かかる問題を6分以内に解けという無理難題。これは時間内に解かせることが目的なのではなく、時間内には解けないような問題に対してどのようなアプローチをするかを見極めるためのものでした。しかしジョーンはその問題を5分30秒ほどで解き明かし、アランを驚かせます。
そして新メンバーには男性が一人と、このジョーンの二名が採用されます。
採用されたジョーンはけれど、暗号解読の仕事を辞退しようとします。それを知ったアランは彼女を説得。結局自分たちの暗号解読部ではないものの、何とか同じ職場でジョーンを働かせることに成功します。

 

仕事の合間にジョーンの助言を聞きながら、アランは今までと同じようにクリストファーの作成を続けていました。
このあたりから、アランに少しずつ変化が訪れます。それまであまり他人への関心を示すことが無かったアランですが、ジョーンから「周囲を大切にしなければ、いつか自分が困ったときに誰も手を差し伸べてくれなくなる」と助言を受け、彼なりに自分の今までの態度を改め、周囲とコミュニケーションを取ろうと努力を始めます。

 

その甲斐あって、中々成果の上がらないクリストファーを中止させようとデニストン中佐を始めとした政府上層部がアランの元を訪れた際には、チームメンバーが「エニグマを解読できるのはアランのマシンだけだ。もし彼をクビにするのなら、自分たちも暗号解読部を辞める」と彼をかばってくれるほど、彼は周囲との関係を良好なものとしていました。
何とか難を逃れたアランは、しかしエニグマ解読までの期限を設定されてしまいます。

 

クリストファー自体は完成していたが中々結果が伴わず焦るその最中、ジョーンが両親から「女性がいつまでも独り身でいるものではない」と実家に戻って結婚するように言ってきました。そこでアランは、ジョーンへプロポーズをすることに。
アランはジョーンの事を好いてはいましたが、それは一人の人間として好きであり、異性として好きではないこと。そして、アランが同性愛者だということがわかります。
ちなみにこの当時、イギリスでは同性愛は違法であり、刑罰の対象だったようです。

 

同性愛者であることを隠しながらも何とか上手くやっていたアランは、ジョーンの友人である一人の女性の何気ない発言を切っ掛けにエニグマの解読に成功します。
それはすべてのパターンを試すのでは一日が終わってしまうので、切り捨てられるパターンを切り捨て、特定のキーワードを基にクリストファーに暗号解読をさせるというもの。そしてその特定のキーワードというものが「アドルフ・ヒトラー」というただ一つの言葉でした。

 

暗号を解読したアランたちは、その日の内にある輸送船がドイツ軍の標的になっていることを知ります。電話にてすぐにそのことをデニストン中佐に知らせて輸送船を護ろうとするヒューを、アランが必至に引き止めます。
何故襲われていることを知りながらそれを知らせないのか一行が疑問に思う中、アランがその理由を説明します。

 

もし標的になっている輸送船が大した理由もなく突如として引き返してしまったら、ドイツ軍にエニグマが解読されたと知られてしまう恐れがある。そうなった場合、エニグマの新型を作成され、せっかくの暗号解読が無意味になってしまう。
アランはそのことに気づいたのでした。
しかし、その輸送船にはチームメンバーの一人の兄が乗っていました。涙ながらに輸送船を助けてくれと懇願する彼に対するアランの答えは非情なものでした。
何と言われようよ、アランは「ノー」と答えます。

 

それからアランはエニグマの解読に成功したことをデニストン中佐にさえ知らせず、その上にあたるMI6のメンシーズという人物に秘密裏に報告。そして、解読したことを悟られないようにするため、情報の重要度を選別。その上であえて受ける攻撃と、避ける攻撃を選択し、避けた攻撃もそれが偶然であるかのように情報操作をして欲しい。また、これらのことは極一部の人間しか知らないトップシークレットにして欲しいとメンシーズに依頼します。
メンシーズも戦争に勝利するため、アランの提案を承諾しました。

 

その後、アランたちは毎日暗号を解読しては、どの攻撃は受けてどの攻撃は避けるかを計算し続けます。それはつまり、どの兵士の命を殺し、どの兵士の命を救うかを選別しているということに他なりませんでした。

 

そんな中で、アランはメンバーの一人がロシアのスパイであったことに気が付きます。アランはメンシーズにそれを報告しますが、実はメンシーズたちMI6は既にそんなことは知っていました。勝手に泳がせておいて、その実、流してよい情報だけをスパイに与えて自分たちの有利になるように事を運んでいたのです。そしてメンシーズは、スパイの存在を知ったアランに、暗号解読部でのどの情報を流してよいかを今後、自分たちに教えるように言ってきました。
もし断ればジョーンの身の安全の保障は出来ないと脅しを受けたアランは仕方なくその仕事を引き受けることに。

 

この後の約二年間、スパイへの情報であったり、エニグマの情報の選別であったりと、アランは戦争の計算をし続けました。その結果、イギリス軍は戦争に勝利することが出来ました。終戦になり、エニグマの暗号解読という事実は全て無かったことになりました。全ての資料を燃やし、またアランたちが軍の仕事に就いていたという経歴も消し去られました。

 

終戦後、アランは同性愛者であることがバレてしまい、警察に逮捕されます。しかし、アランにはもっと深い何かがあると考えていた刑事がアランと話しをするために事情聴取を行いました。その刑事に対して、アランは今までずっと秘密にしてきた戦争での自身の事を彼に語って聞かせるのです。
そして最後にアランは刑事に問いかけました。
「戦争中、多くの命を計算し選別してきた自分は何者なのだろうか? 自分はただの機械か? それとも人間なのか? 戦争を終結に導いた英雄なのか? それとも多くの殺した殺人者なのか? 君に私をジャッジして欲しい」
その問いかけに、刑事は答えます。
「私は君をジャッジすることはできない」
それを聞いてアランは言いました。
「であるならば、君は私を救うことはできない」

 

結局、アランは同性愛者という罪で収監をされるか、あるいはホルモン治療を受けるかの二択を迫られ、彼は後者を選びました。
ホルモン治療の弊害により、アランは得意であったはずのクロスワードパズルすら解けなくなるほどになってしまいました。
そして、アランは自殺という最後を選びました。
後は字幕でアランは2013年にエリザベス女王から恩赦を与えられ、戦争の終結を早めた功労者として知られることになったと表示されて映画は幕を閉じます。

 

個人的にこの映画の素晴らしい点は、アランたちがエニグマを解読した後にあると思います。
普通この手の映画というものは「主人公たちが暗号を解読して戦争が終結しましたハッピーエンド」的な流れで終わると思っていました。
しかし、寧ろ本編は暗号解読後だったと思います。

 

確かに暗号を解読しただけで戦争に勝てれば何ら苦労はありません。解読した暗号をどう有効活用するか、それが重要なのは尤もです。
そして戦争中にその情報を利用するということは、作中であったように他人の命の取捨選択をするという事です。

 

戦争をテーマにした映画というものは、前線に出ている兵士にスポットが当てられているものが多く感じます。
そういった点では、この映画は兵士が銃を手にドンパチしていたり、戦車や戦闘機に乗って戦っているというような、戦争をしているという確かな描写はほとんどありません。
ですが、戦争中にはこの映画に出ていたような別の方面から戦争に参加していた人々も多くいたはずです。
多くの命が失われるその真っ只中で戦っていた兵士たちには深いトラウマなどが刻まれたことだと思いますが、このような所謂裏方のような人たちにも、多くのトラウマが刻まれたことだと思います。

 

主人公のアランが刑事に問いかけた言葉や、最後に選んだ結末が自殺だったということからも、やはり命の取捨選択というものは相当にストレスや心に傷を負うものだったのでしょう。
さらに言えば、暗号解読部のメンバーはその存在自体が無かったことにされたため、戦争中はどこかに避難していた卑怯者と蔑まれた人も居たようです。

 

この映画はそういった戦争のシビアな部分を、こういった側面から描きだした名作でした。
映画の内容としてはある種のバッドエンドかもしれませんが、それでもこの映画は素直に面白かったです。